退職給付の社会的役割とは

退職給付とは、一般に、企業が従業員に対して退職金や企業年金の形で退職時に(または退職後の一定期間にわたって)支給する報酬(基本的には現金)のことをいいます。

企業に退職金制度が広く普及した戦後の高度成長期においては、労働者の確保と育成が、企業にとって退職給付を設ける最大の目的でした。

しかし経済成長の鈍化とともに終身雇用や年功序列を維持するのが困難になりつつあることや、長期勤続を必ずしも必要としない仕事が増えてきたことから、上記のような目的は後退し、これに代わって、少子高齢化による公的年金の縮小などを背景に、従業員にとっての老後の所得保障としての性格が強まってきています。

つまり、退職給付の位置づけが「企業が従業員に与えるインセンティブ」から、「従業員が求める老後の生活保障」に変化しつつあるということです。

ただ実際のところ、個々の従業員の退職給付に対する関心や理解が高まっているとはあまり感じられません。老後に対する漠然とした不安はあっても、それが具体的な行動には結びついていないというところでしょうか。

公的年金を補完するものとして退職給付の重要性が叫ばれながら、実際には縮小傾向にあるのは、そうした従業員側の意識の問題も1つの理由としてあげられるかもしれません。

しかし高齢化が進む中で何も手を打たなければ、支え手である現役世代の負担はますます重くなり、支えられる側の老後世代が受けられる支援はますます細ることになります。こうした状況を改善し、社会の活力を維持し、現役世代が豊かな将来を描けるようにすることが、退職給付の社会的な役割といえるでしょう。

退職給付の多様性と個人の選択

「退職給付」という日本語は、英語の"retirement benefit"から来ているものと考えられます。ここで"benefit"とはもともと「利益」とか「便益」という意味であり、必ずしもお金に限定されているわけではありません。

退職給付の役割を上記のように捉えるならば、その方策は退職金や企業年金の充実のほかにも考えられます。例えば、従業員の自助努力による老後所得の確保の支援や、定年後の就業の機会の提供(もしくは定年年齢の引き上げや廃止)、また、そうした機会を得られるように能力開発を行ったり、健康増進のための取り組みをおこなったりといったことです。

今後は、こうした多様な「退職給付」の合わせ技により、高齢化という課題に対処していくことが必要になってくるでしょう。公的年金や、退職金のようなこれまでの退職給付は、今後も老後の生活を経済的に支える重要な柱であることには変わりはないとしても、それだけにすべてを頼ることは期待できないからです。

これは、個人にとってみれば、老後の過ごし方にいろいろな選択肢があるということでもあります。
  • 現役時代にとにかく稼いで、貯めて、運用して、老後は完全リタイア
  • 生涯現役を目指し、年齢に関係なくバリバリ働く
  • 現役時代の知識と経験を活かし、定年後は自分のペースとスタイルで働く
人生の後半期を自らデザインし、自ら進む道を選べるようにすること、それがこれからの退職給付が目指すべき姿ではないかと考えます。

 * * *

ちなみに、今日の記事のタイトルにある「セレクション アンド バリエーション」は、私の尊敬する人事コンサルタントの平康慶浩さんが経営している会社の社名からとったものです。本記事の中で意味するところは、こちらの社名に込められた意味(こちら)とはやや異なりますが、今回の内容からピンときて拝借させていただきました。