昨日の記事で、企業年金連合会の財政について、以下の3点が指摘されていることを紹介しました。
  1. 最低責任準備金の返還により、将来的に資産規模の大幅な縮小が避けられないこと
  2. 残る上乗せ部分の予定利率が高いこと
  3. 制度運営コストの負担が相対的に重くなること
ではこの対応策として何が考えられるのか、あくまで個人的見解ですが、3つほどあげてみます。

最低責任準備金の返還と予定利率の引き下げ

代行部分の資産は運用がうまくいけば収益源になりますが、逆に振れると上乗せ部分の給付の原資を食いつぶしてしまうことになります。

実際、過去の推移をみるとITバブル崩壊後の2002年度や、リーマンショックのあった2008年度には、一時的に年金資産が必要積立額を23%以上下回っており、上乗せ部分の給付原資がほぼ枯渇していた状況にあったと想定されます。

幸いその後運用状況は改善し、2015年度末時点では1兆円以上の剰余を確保できています。いずれ最低責任準備金の返還が必要なのであれば、余裕資金のあるうちに返しておき、将来再び上乗せ部分の原資が枯渇してしまうようなリスクは回避しておくのが無難です。

仮に2015年度末の状況で返上したとすると、上乗せ部分の必要積立額に対して40%近い剰余がある計算になります。これを基本プラスアルファ部分の予定利率の引き下げ原資にあてることで、積立不足に陥ることなく全体の予定利率を2%程度にまで下げることができると考えられます。

企業年金連合会が将来にわたって支払うべき給付に対して、その積立状況の実態を正確に表すようにしておくことが、今後の対策を進める上での第一歩であると考えます。

積立状況に応じた給付調整の仕組み

企業年金連合会に資金が入ってくるのは、確定給付企業年金(DB)を中途脱退(退職)した人や、制度終了したDBの加入者や受給者が、そのタイミングで一時金を受け取らず、企業年金連合会に預けることを選択した場合に限られます。

一般のDBのように、積立不足が発生したときに掛金を追加負担する母体企業が存在しないことに加え、定常的に掛金を拠出する加入者も存在しません。

このような状況において、一定の予定利率を保証しつつ終身の年金給付を維持していくのは、5年、10年程度であればともかく、40年、50年という超長期で考えると、とても確実とはいえないでしょう(ちなみに今私が連合会に資産を預けて、平均余命まで生きるとすると、年金をもらい終わるのは43年後になります)。

だとすれば、積立状況に応じて自動的に給付を調整する仕組みを入れることで、制度の持続可能性を向上させるのが賢明だと思います。「リスク分担型企業年金」の仕組みは、企業年金連合会のためにあるといってもいいのではないでしょうか。

ただ連合会に資産を預ける人にとってリスクを「分担」する相手はいませんから(個人的には「分担」という名称自体がこの仕組みの実態を表していないと思っていますが)、リスクは自分でとることになります。しかし、老後資金という超長期の運用を考えた時、リスクのない預け先などそもそも存在しないと考えるべきでしょう。 

受け入れ可能資産の拡大

上記のような給付調整の仕組みを導入したとしても、受け入れ資産が非常に限定されている現状のままでは事業の縮小は避けられず、いずれ存在意義を問われることになると思います。

しかし、一時金を元手にして終身年金の給付を行う機能というのは、ほかにはない連合会の最大の特色です。今や終身年金のDBを提供している企業はごく一部であり、今後減ることはあっても増えることはないでしょう。そもそも企業年金のある企業自体が減少傾向にあります。

民間保険会社の終身年金保険もありますが、当然のことながら一定の利益を確保できることが前提となるため、魅力ある商品設計というのはなかなか難しいと思います。

となると、今は連合会の受け入れ資産の対象に入っていない、
  • DBの選択一時金(定年退職時に受け取れる一時金)
  • DCの資産(企業型と個人型の両方)
  • 退職一時金
  • 中退共、特退共
を対象に入れて、これらを終身年金化することは、連合会の事業の継続のためということではなく、公的年金が縮小する中で、誰もが終身の上乗せ年金を受給できる機会を提供するという点で、社会的にも意義のあるものになるのではないでしょうか(そもそも社会的な意義が乏しければその事業は継続できない)。

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これらを実現するには、税制も含めたハードルがいくつも出てくると思いますが、いずれにしても連合会には「企業年金」という枠を超えて、今後の事業戦略を考えていく視点が必要なのではないかと思います。