「退職金・年金の超キホン」シリーズの15回目です。第8回からは国の年金について解説しています。

第8回:日本の年金制度は破たんしている?
第9回:生命保険にもなる国の年金
第10回:国民年金と厚生年金~第3号被保険者って何?
第11回:年金は何歳(何月)からもらえる?
第12回:年金はもらえる年齢を選べる
第13回:毎年計算し直される年金額
第14回:賃金にぴったり連動してきた年金額

過去40年以上にわたり、ほぼ賃金水準に連動してきた年金額ですが、今後はどうなっていくのでしょうか。

年金の実質的な水準を表す指標に「所得代替率」というのがあります。現役世代の手取り収入に対して、老後の年金収入の割合がどの程度か、というのものです。

数字の取り方によってこの指標は変わってきますが、厚生労働省が設定する「標準モデル」では62.7%(2014年度)となっています。もし今後も年金額を賃金水準に連動させることができれば、所得代替率は6割程度を維持できるということになります。

しかし、2014年度に行われた財政検証、つまり将来見通しの試算によると、楽観的な経済前提の下でも将来的な所得代替率は5割程度に低下し、もっとも低成長な前提(ケースH)では、制度の見直しを行わないままだと2055年度に国民年金は積立金が枯渇、以後は保険料収入と国庫負担(税金)の範囲内で年金を支払うものとすると、所得代替率は35%~37%になると試算されています。

ただしケースHにおいても、厚生年金は2055年度時点で215兆円(賃金水準を考慮して2014年度の価格に換算すると117兆円)の積立金を有しており、2014年度の国民年金と厚生年金の積立金合計182兆円の実質6割以上は確保できている状態ですので、これを取り崩してけば、もう少し高い水準を維持できることになります。

しかし、もっとも低成長なケースHでも、長期の経済前提は物価上昇率年0.6%、賃金上昇率(対物価)年0.7%となっており、前回見た過去20年の実績(物価上昇はほぼゼロ、賃金はマイナス)より高めの設定となっています。

仮に将来、物価も賃金も上昇しないとなると、今の仕組みでは「マクロ経済スライド」は発動されず、年金額は今の水準が維持されます。そのため、上記ケースHよりも積立金の取り崩しが早く進み、より早い時期に国民年金の積立金が枯渇して、厚生年金の積立金も取崩さざるを得ません。

そして完全に積立金が枯渇したとき、年金の水準は一気に所得代替率35%、つまり現在の6割程度の水準に下がってしまうことになります。

それはさすがにまずいので、「物価も賃金も上昇しないときでも、マクロ経済スライドどおり少しずつ年金額を減らしていきましょう」とするのがよいかというと、私はそうは思いません。むしろ、今の所得代替率をできるだけ維持したほうがよいと思っています。

年金額を下げるというのを図示すると、こうなります。
20161001
下がった部分は、退職金(企業年金)や自助努力(65歳以降も働くことも含めて)で賄う必要がありますが、事前に準備するにしても何歳まで生きるかは分かりませんし、高齢になれば働きたくても働けなく可能性が高くなります。どこまで伸びるか分からない横長の年金を自分で何とかするというのは難しいことです。

では、このようにしたらどうでしょうか。 
20161001b
 先ほどの横長の年金とは違い、5年限定の縦の年金であれば、いくら準備しておけばよいのか事前にわかりますし、働いて稼ぐことも可能です(以前書いたように、既に現時点でも65~69歳の男性の過半数は仕事に就いています)。

将来の人口推計に基づく2055年時点での年齢分布から計算すると、年金の支給対象を65歳以上から70歳以上とすることによって、年金額の水準は2割程度引き上げることができます。

また、現在20~59歳までとなっている国民年金保険料の加入対象を69歳まで広げると、2055年時点では3割加入者が増え、その分保険料収入が増えることになります。実際には、厚生年金は既に69歳まで加入対象となっているので、そこまでの効果はないかもしれませんが、就業率の向上による保険料収入の増加が見込めます。

年金の支払い対象を70歳以上とすることで2割、さらに保険料の支払い対象を69歳までとすることで仮に2割、 年金の原資を増やすことができれば、積立金が枯渇しても所得代替率は35%から5割程度にまでアップします。

実際には、より早い段階から少しずつ年金の支給開始年齢や加入対象年齢を引き上げていくことによって、積立金を枯渇させることなく、所得代替率を今の6割程度に限りなく近づけることができるでしょう。

というわけで、結論としては、現役の期間を延ばすことで、これからも賃金水準と年金額は連動させていくことができるということです。

* * *

これまで、15回にわたって「退職金・年金の超キホン」として毎週書いてきましたが、このシリーズは一旦今回で完結し、次回からはまた別の切り口で書いていこうと思います。