昨日は、退職金の内枠で調整年金(リスク分担型企業年金のこと)を実施した場合を例にとって、
  1. 退職給付制度全体を「確定給付制度」と考える
  2. 調整年金部分は「確定拠出制度」ととらえ、全体からこれを控除した部分を「確定給付制度」と考える
の2.について、調整率をパラメータとして内枠控除後の退職一時金のDBOを計算する方法について考えてみました。

今日はもう一つの方法として、「制度全体のDBOから調整年金の年金資産を控除したものを内枠控除後の退職一時金のDBOとし、制度全体の勤務費用から調整年金への掛金拠出額を控除したものを内枠控除後の退職一時金の勤務費用とする」方法について考えることにします。

なお、この方法は、退職金の内枠で中小企業退職金共済制度(中退共)を実施している場合に実務上用いられています。但し中退共には加入する各企業に対応する「年金資産」というものはありませんので、DBOから差し引くのは中退共からの「要支給額」です。

例えば、制度全体のDBOを100、調整年金の年金資産が45だとすると、退職一時金のDBOは100-45=55と計算され、これがそのまま退職給付に係る負債(退職給付引当金)となります。

1.の考え方を取った場合はDBOが100、年金資産が45で、引当金は100-45=55と同じ結果になります。

退職給付費用に関しても、例えば制度全体の勤務費用を10、調整年金の掛金拠出額を6とすると、2.の考え方では、
確定給付制度(退職一時金)の勤務費用:10-6=4
確定拠出制度(調整年金)に係る費用:6(=掛金拠出額)
合計:4+6=10
となり、1.の考え方を取った場合の勤務費用(制度全体の勤務費用=10)と一致します。

というか、この方法は1.の考え方を取った場合と違いが出ないようにする方法といったほうがいいかもしれません。

しかし、退職給付費用のうち、利息費用と期待運用収益の部分についてはならずしも一致しません。例えば、割引率を1%とすると、2.の考え方では利息費用(=DBO×割引率)は55×1%=0.55となります(年金資産は認識しないので期待運用収益は0)。

一方1.の考え方では、利息費用は100×1%=1、ここで長期期待運用収益率も1%なら期待運用収益(年金資産×長期期待運用収益率)は45×1%=0.45となり、利息費用と合算すると1-0.45=0.55となって2.の場合と一致しますが、長期期待運用収益率が1%以外だと一致しません(例えば2%なら0.1、0%なら1となる)。

つまり、割引率と長期期待運用収益率の大小関係によって違いが出てくるということです。しかし期末時点での負債の額(DBO-年金資産)は一致するので、その差額は数理計算上の差異に入ってくることになります。

なお、これは現在の実務で行われている中退共を内枠とした場合でも同じです。但し、中退共の場合は期待運用収益との比較ではなく、「要支給額の増加額のうち利息相当分」との比較になります。中退共の予定利率は1.0%となっているため、通常は割引率と大きくかい離することはありません。 

2.の考え方でこの方法をとった場合、1.と比べて確かにDBOは減少しますが、引当金の金額は(数理差異の部分を除いて)基本的に変わらず、金利の変動や運用収益の増減による退職給付費用への影響が軽減されることもありません。

なので、こうした影響を抑えたいということなら、内枠で調整年金を導入しても効果はないということになります。

というか、そもそも年金資産を控除するという考え方にあまり根拠がないですね。中退共の場合は要支給額分が実際会社が支給する退職一時金から控除されるわけですが、調整年金の場合は年金資産がそのまま実際の支給額になるわけではありません。

この方法をとるくらいなら、やはり調整年金部分も含めて確定給付制度とする1.の考え方のほうがスッキリします。