「退職金・年金の超キホン」シリーズの13回目です。第8回からは国の年金について解説しています。

第8回:日本の年金制度は破たんしている?
第9回:生命保険にもなる国の年金
第10回:国民年金と厚生年金~第3号被保険者って何?
第11回:年金は何歳(何月)からもらえる?
第12回:年金はもらえる年齢を選べる

前回書いたように、年金をもらい始める時期を遅らせると、年金額を増やすことができます。65歳からもらえるところを70歳まで待つと、年金額は42%増えます(逆にもらい始める時期を早めると、年金額は減らされます)。

ただ、実際には5年待っている間にベースとなる年金額自体が毎年ちょっとずつ変わっていくので、今の金額からちょうど42%増えるわけではありません。

2016年度の老齢基礎年金

2016年度の国民年金(老齢基礎年金)の額は、40年間フルに保険料を納めている場合の満額で、年780,100円(月65,008円)です。結果的には、2015年度の金額と同じになっていますが、これには次の3つの率か関わっています。
  1. 名目手取り賃金変動率:▲0.2%
  2. 物価変動率:0.8%
  3. マクロ経済スライドによる調整率:▲0.7%
1の名目手取り賃金変動率は、現役世代の手取り収入(天引きされる前の賃金から、税金や社会保険料を差し引いた収入)の水準が、平均してどの程度増減したかを表す率です。
2の物価変動率は、モノやサービスの値段が平均してどの程度増減したかを表す率です。

年金額の調整の基本的な考え方は、
  • 67歳に到達する年度までの年金額は賃金変動率(1の率)に合わせて調整する。
  • 68歳に到達する年度からの年金額は物価変動率(2の率)に合わせて調整する。
となっています。 つまり、年金をもらい始めるときの額は現役世代の賃金水準に応じて調整し、年金をもらい始めた後の額は物価の水準に応じて調整するという考え方です。

ただしどちらの率を使うかは、実際年金をもらい始めているかどうかではなく、上記のとおりそのときの年齢によって決まります(前回、繰上げ受給するとベースとなる金額も将来変わるような書き方をしましたが、訂正します)。

これをそのまま適用すると、67歳以下の人の年金額は0.2%減額され、68歳以上の人の年金額は0.8%増えることになりますが、そうなると「世代間の格差」が広がってしまうことから、このようなケース(賃金変動率がマイナスで物価変動率がプラス)では、どちらの年金額も調整しないこととなっています。

この時点で3の「マクロ経済スライドによる調整率」も適用しないことになり、2016年度の年金額は2015年度から据え置きとなっています。

2015年度の老齢基礎年金

では、2014年度から2015年度はどうだったかというと、67歳以下の人の額、68歳以上の人の額とも772,800円から780,100円に増額されています。この時の3つの率は、
  1. 名目手取り賃金変動率:2.3%
  2. 物価変動率:2.7%
  3. マクロ経済スライドによる調整率:▲0.9%
となっています。

したがって、基本的な考え方からすると67歳以下の人の額は2.3%、68歳以上の人の額は2.7%増えることになりますが、やはり「世代間の格差」を考慮し、このようなケース(物価変動率の上昇が賃金変動率の上昇を上回る場合)では、68歳以上の人の額も賃金変動率に合わせることになっています。

そして最後に「マクロ経済スライドによる調整率」が加わります。これは、少子高齢化による「支え手」の減少(=保険料収入の減少)と平均余命の伸び(=年金支払額の増加)による収支の悪化に対応するために設けられたものであり、公的年金(国民年金及び厚生年金)の加入者数の減少率(0.6%)と平均余命の伸び率(0.3%)を合わせた率(0.9%)を差し引くことになります。

ということで、最終的には1.023(賃金変動率分)×0.991(マクロ経済スライド調整分)≒1.014で1.4%の増額になる…はずですが、実際には778,100÷772,800≒1.007で0.7%しか増えていません。これには「特例水準」が影響しています。

2004年度の特例水準

マクロ経済スライドの仕組みが導入されたのは2004年度です。それに先立つ2000年度から2002年度の3年間、本来は物価の下落に応じた年金額を引き下げるべきところを特例措置により据え置いたため(特例水準)、2004年度時点では「本来水準」よりも1.7%高い水準となっていました。

物価や賃金が順調に上がっていれば、すぐに 「本来水準」が「特例水準」を超え、その時点からマクロ経済スライドによる調整率が適用されるはずでしたが、実際にはデフレが続き、いつまでたっても「特例水準」が維持されたままでした。

そこで2013年度から2015年度の3年間でこの特例水準を段階的に切り下げて、本来水準との差を解消することになりました。2014年度時点ではまだ0.5%の差が残っていたため、2015年度の1.4%の増額のうち0.5%分はこの解消に充てられ、正味の増加率は0.9%になったというわけです(あとの0.2%の差は端数処理等によるもの)。

2017年度以降の老齢基礎年金

特例水準と本来水準の差は2015年度に解消されたため、今後は3つの率に応じて以下のように年金額の調整が行われることになります。

①賃金・物価とも上昇したとき
本来の考え方に沿って、67歳以下の人の額は賃金変動率からマクロ経済スライド調整率を差し引いた率、68歳以上の人の額は物価変動率からマクロ経済スライド調整率を差し引いた率によって調整(増額)されます。

但し、賃金の上昇よりも物価の上昇のほうが高い場合は68歳以上の人も賃金変動率を用いることとし(2015年度のパターン)、また、マクロ経済スライド調整率を差し引いた結果、マイナスになる場合は0止めして年金額は据え置きとなります。

②賃金は下落、物価は上昇したとき
2016年度と同じパターンであり、年金額は据え置きとなります。

③賃金は上昇、物価は下落したとき
67歳以下の人の額は、本来の考え方に沿って、賃金変動率からマクロ経済スライド調整率を差し引いた率によって調整(増額)されます。但し、マクロ経済スライド調整率を差し引いた結果、マイナスになる場合は0止めして年金額は据え置きとなります。

68歳以上の人の額は、物価変動率の分だけ減額されます(そこからさらにマクロ経済スライド調整率分を差し引くことはしない)。

④賃金、物価とも下落したとき
67歳以下の人の額は賃金変動率、68歳以上の人は物価変動率の分だけ減額されます(そこからさらにマクロ経済スライド調整率分を差し引くことはしない)。

但し、賃金の下落が物価の下落よりも大きい場合には、67歳以下の人の額も物価変動率を用いることとなります。


ちなみに、2004年以降の賃金・物価の水準の変動は以下のようになっています(2004年を100として表示)。
図1
上記の「賃金水準」は、年金額の調整に用いる「名目手取り賃金変動率」とは異なりますが、これをそのまま2017年度以降の調整方法に当てはめて考えると、
  • 67歳以下の人の年金額は、10回のうち7回は据え置き、3回は減額
  • 68歳以上の人の年金額は、10回のうち5回は据え置き、5回は減額
ということになりそうです。