8月末を迎え、各省庁から来年度の税制改正要望が出そろいました。一覧はこちら

企業年金関係では、厚生労働省から特別法人税の撤廃が要望されています。特別法人税とは、以前「特別法人税の影を振り払うことはできるか?~改正DC法の付帯決議」にも書いたとおり、企業年金の積立金(運用収益ではなく積立金全体)に対して課される税です。1999年度以降は2~3年ごとに凍結措置が繰り返され、実際には課税されない状況が続いています。

来年3月に7回目の凍結期間が終了するのに伴い、企業年金を所管する厚生労働省は凍結の延長ではなく、特別法人税そのものの撤廃を要望しています(凍結期間終了時には毎回撤廃の要望があがってますが、結果はすべて「凍結延長」)。そしてこの要望は、金融庁、経済産業省、農林水産省、文部科学省、総務省、財務省との共同要望となっています。

金融庁は投資を促進させる立場にあり、経済産業省は企業活動を促進する立場にあることから、共同要望というのも理解できますが、他の省庁はどうなんでしょうか。

農林水産省
企業年金業務を受託し、資産の管理・運用を行っているのは主に信託銀行と生命保険会社ですが、全共連(全国共済農業協同組合連合会)も企業年金を受託しています。顧客は基本的に企業年金を実施しているJAグループの団体で、全共連を含めたこれらの団体は農林水産省の所管です。

農林水産省としては、「農業関係者等の高齢期の所得保障を充実」「農業関係者等の生活の安定向上」のための撤廃要望というわけです。

文部科学省
文部科学省が撤廃を要望しているのは「年金等退職給付の積立金」に対する特別法人税です。ここでいう年金等退職給付とは、私立学校の教職員に対する年金給付であり、公務員に対する年金払い退職給付に相当するものです。

昨年9月まで、厚生年金とは別に運営されていた私立学校教職員共済ですが、被用者年金の一元化に伴って厚生年金に統合されました。従来の「職域部分」は廃止され、代わりに新しくできたのが「年金等退職給付」です。

基本的に公務員の共済制度が厚生年金に統合されたのと同様の扱いですが、私学共済については文部科学省の所管になっています。

総務省
総務省が撤廃を要望しているのも「年金等退職給付の積立金」に対する特別法人税ですが、こちらは地方公務員に対する年金給付に対してのものです。地方公務員の共済組合は総務省の所管です。

財務省
最後に財務省ですが、財務省からは「年金等退職給付の積立金」に対する特別法人税の撤廃と、「適格退職年金契約の積立金」に対する特別法人税の撤廃もしくは非課税措置の延長の2種類の要望があげられています。

前者の年金等退職給付は国家公務員に対するものです。国家公務員の共済組合は財務省の所管です。

また、後者の適格退職年金については2012年3月をもって廃止された企業年金制度ですが、廃業などにより事業主が存在しない閉鎖型の適格退職年金(受給者のみの適格退職年金)については特例として存続が認められています。適格退職年金はもともと国税庁の所管です。

なお、この適格退職年金に対する要望だけは「撤廃」ではなく「撤廃または凍結の延長」となっています。財務省としては、国家公務員共済の課税は撤廃しても、企業年金への課税の枠組みは残しておきたいということでしょうか(実際そんなことにはならないでしょうが)。


…と、こうしてみると、省庁による「縦割り」が如実に表れている感じがしますねぇ。

これまで繰り返し撤廃が要望されつつも、凍結どまりになっていた特別法人税ですが、今回は確定拠出年金法の成立とあわせて「特別法人税の廃止について検討を行う」という付帯決議がなされています。これまでに比べると撤廃の可能性も少しは出てきたのかなとは思いますが…。