「退職金・年金の超キホン」シリーズの5回目です。

前回まではこちらから。
第1回:退職金って何ですか?
第2回:退職金っていくらもらえるんですか?
第3回:退職金は確実にもらえるんでしょうか?
第4回:企業年金って何ですか?

第4回で出てきた「確定給付企業年金」と「確定拠出年金」。今回はこの違いについて見ていきましょう。

なお、「確定給付(DB:defined benefit)」「確定拠出(DC:defined contribution)」 という言葉は、もともとは年金制度における給付(年金や一時金)の支払いと掛金の負担のバランスを調整するシステムの違いを表すものですが、ここでは実際にそれらのシステムが組み込まれた2つの企業年金制度の違いについて説明していくことにします。

▼個人ごとの積立額があるのが確定拠出、ないのが確定給付
確定拠出では、制度に加入すると同時に個人ごとの専用口座が作られます。毎月の掛金は1人1人の口座に積み立てられていきますので、個人ごとの積立額が明確です。

一方で、確定給付の年金資産の積み立ては制度全体でまとめて行います。個人ごとには分けられていません。個人ごとに「仮想個人勘定残高」を持つキャッシュバランスプランというものがありますが、あくまで「仮想」の残高であり、実際のその金額が積み立てられているわけではありません。

ですから、確定拠出には「個人型」という、会社とは関係なく自分で掛金を出して積み立てるタイプのものがありますが、確定給付には「個人型」はありません。「確定拠出年金」のほうだけ制度の名称に「企業」が入っていないのは、企業型と個人型の2つのタイプがあるためです。

▼自分で運用方法を決めるのが確定拠出、会社が運用方法を決めるのが確定給付
確定拠出では、自分の口座に積み立てられた掛金をどの商品で運用するかは自分で決めます。自分に選択権があるということは、その結果に対する責任も自分で負うというとです。

運用がうまくいけば将来受け取れるお金が増えますし、うまくいかなければ減ります。減っても会社が補てんしてくれることはありません。

一方確定給付では運用方法を決めるのは会社であり、その結果に対して責任を負うのも会社です。もし運用がうまくいかなければ会社は掛金を追加して不足分を補てんしなければなりません。

▼投資教育があるのが確定拠出、ないのが確定給付
確定拠出は運用結果について自分で責任を負うことになりますが、その前提として制度を導入した会社は社員に対して投資に関する教育を行う義務があります。社員の側から見れば、教育を受ける権利・機会を持っていることになります。

確定給付では運用するのは会社ですから、そのような教育を社員に行う必要はありません。

▼受取額が退職したときの条件によらないのが確定拠出、条件により変わるのが確定給付
確定拠出の場合には個人ごとの積立額、つまり毎月の掛金と運用収益を合計した額がそのまま受取額になります。それ以外の要素は関係ありません。定年退職だろうと懲戒解雇でクビになろうと同じです。

確定給付の場合は退職したときの勤続年数や年齢、給与やポイント、退職の理由などによって受取額が決まります(退職金と基本的に同じ仕組み)。入社から退職までその人に対応する分としていくら掛金を出し、その運用収益がどうだったかは直接関係ありません。

▼60歳までもらえないのが確定拠出、定年前でもやめた時にもらえるのが確定給付
確定拠出は一般の貯蓄や投資と比べて税制優遇されている代わりに目的が老後資金準備に限定されており、口座にお金はあっても基本的に60歳になるまで引き出せません。

確定給付は退職金の性格をそのまま引き継いでおり、退職した時点で一時金を受け取ることができます。

▼持ち運びできるのが確定拠出、できないのが確定給付
確定拠出をやっている会社を辞めて転職したとき、転職先の会社でも確定拠出をやってれば前の会社での積立金を転職先の口座に移すことができます。転職先の会社に確定拠出がなければ個人型に移すことになります。

確定給付でも、転職前の会社の制度から支給される一時金を受け取らずに、 転職後の会社の制度に移せる仕組みを用意することは法律上可能となってますが、実際そのような形で一時金を受け入れている会社はほとんどありません。


…このほか、会社側の立場からは「退職給付債務がない確定拠出、退職給付債務がある確定給付」 という重要な違いがあったりしますが、社員の立場から見た主な違いはこんなところでしょう。

確定拠出年金というと、社員にとっては「自己責任で運用しなければならない」「60歳まで受け取れない」というデメリットが強調されがちですが、「自分の積立額が明確」「受取額が退職の理由などに左右されずフェア」といった点はメリットであるといえます。