退職金制度を作ったり、やめたり、あるいは内容を見直したりといった話題が出るとき、その制度の対象は正社員であることがほとんど暗黙の了解となっています。中には正社員の退職金規程とは別に契約社員等の規程を設けていたり、企業年金制度の一部に非正規社員を含めている企業もありますが、珍しいケースです。

ただ、最近は退職給付に関して非正規社員の扱いが時々話題に上るようになりました。それは、厚生年金基金の解散によるものです。

厚生年金基金は企業年金でありながら国の厚生年金の一部を取り込んでいるため、加入対象は正社員かどうかにかかわらず、厚生年金の適用者全体となります。そして、最近まで残っていた総合型の厚生年金基金(中小企業を中心とした多数の企業で構成された基金)では、国の年金に上乗せする部分も含めて全員を対象としていました。

しかし法改正によって厚生年金基金制度は実質廃止されることとなり、厚生年金基金の解散が進むにつれ、基金に加入していた企業では解散後の対応が課題となっています。正社員については代わりの制度を設けるなどして不利益をカバーする何らかの対応を取るとしても、非正規社員の扱いは難しいところです。

退職金制度は基本的に正社員を対象としていますし、企業年金制度も退職金制度の積立手段や代替手段として位置付けられているため、非正規社員を対象とすることは想定されていません。非正規社員の側もこれまで「厚生年金基金という制度に加入していた」という意識は薄く、退職金や年金に対する関心は低いというのが実情でしょう。結局、非正規社員に対しては、基金解散による積立金を分配しておしまいというケースがほとんどのようです。

厚生労働省の企業年金部会では「企業年金の普及・拡大」を大きなテーマとして様々な議論が行われていますが、非正規社員に対する制度の適用という観点は今のところ見られません。しかし非正規社員の割合が高まりつつある中では、社会保障や労働条件の格差の問題とも絡んで、今後避けては通れないテーマになってくるのではないでしょうか。