5月31日に開催されたASBJでの公表議決を経て、昨日、リスク分担型企業年金の会計処理の取り扱いを定めた実務対応報告の公開草案が公表されました。

要点は次のとおりです。
  • リスク分担型企業年金は確定拠出制度に分類される。
  • 従って退職給付債務の計上は不要であり、確定拠出年金(DC)と同じように各期に拠出すべき掛金を費用処理すればよい。
  • リスク分担型企業年金へ移行する際の処理も、DCへ移行する際の処理と基本的に同じ。
  • 但し制度導入時に設定された特別掛金(過去の積立不足を埋めるための掛金)相当分については、その総額を未払金等として計上する(制度移行時の損益に反映させる)。
ひと言で言えば、会計上は「リスク分担型企業年金=DC」ということですね。

ただリスク分担型企業年金であれば無条件にDC扱いになるというわけではなく、
「リスク分担型企業年金のうち、企業の拠出義務が、給付に充当する各期の掛金として、制度の導入時の規約に定められた標準掛金相当額、特別掛金相当額及びリスク対応掛金相当額の拠出に限定され、企業が当該掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていないもの」
を確定拠出制度に分類し、それ以外のリスク分担型企業年金は確定給付制度に分類するとされています。

リスク分担型企業年金では制度の導入時に標準掛金相当額、特別掛金相当額及びリスク対応掛金相当額で構成される掛金を算定して規約に定め、その後は新たな労使合意がない限りは掛金の変更は行われません。

したがって、上記の条件はほぼ自動的に満たされることになるわけですが、あえてこのような表現にしたのは、導入にあたって企業年金規約以外のところで「給付の調整(減額)が行われた場合は掛金の見直しを行う」といった取り決めが労使の間でなされた場合には、企業は実質的に追加の拠出義務を負うことになるため、確定拠出制度に分類すべきではないという考えによるものです。

ただ、今回の公開草案やこれまでのASBJでの議論を見る限りは、あくまで企業年金制度に対する追加の拠出義務を負っているかどうかで判断することを想定しているようです。

しかし、従来の確定給付企業年金は退職金制度の内枠、つまり会社の退職金規程でまず退職金の総額を規定し、このうち企業年金から支給される額を差し引いた残りを会社から支払うという形をとっているケースが非常に多く、リスク分担型企業年金でも同じ方法が採用される可能性はあります。

このような形でリスク分担型企業年金が導入された場合、給付の調整(減額)が行われても企業年金制度に対する追加の拠出義務はありませんが、企業年金からの支給額が減った分は退職一時金からの支給額で補てんされることとなります。

こうした場合でも、リスク分担型企業年金を確定拠出制度に分類してしまうのはかなり疑問です。退職一時金制度と企業年金制度を別々に見るのではなく、退職給付制度全体を見て判断するのが妥当でしょう。

リスク分担型企業年金を退職金制度の内枠とした場合の取り扱いについては、議論の過程で退職給付専門委員会において指摘があったようですが、その後この問題について議論された形跡は見当たりませんでした。少なくとも実務上の混乱が起きないよう、内枠とした場合の取り扱いを明示しておく必要があると考えます。