昨日、確定拠出年金(DC)の改正法が成立しました。法案が提出されたのは昨年4月ですが、安保法制を巡る混乱(なんかずいぶん前の出来事のように思えますが)もあって前国会では成立には至らず、今国会に持ち越されていたものです。

現在は、確定給付型の企業年金(DB)を設けている企業の会社員はDCの対象外ですが、今回の法律改正により来年からは個人でDCに入ることができるようになります。これを見越して、DBのみを実施している企業に対しては、金融機関から以下のような売り込みが去年の段階から来ているようです。
「個人型のDCに入る社員が出てくると、給与天引き等の新たな事務が発生します」
「将来的に企業型DCを実施することになれば、その時点ですでに個人型DCに入ってる社員に対して、企業型DCへの移行手続きが必要になってしまいます」
「だから今のうちに企業型DCを導入しておきましょう。給与を原資とした企業型DCを導入すれば会社も社会保険料を節約できますよ」

企業型DCの場合には企業単位で運営管理機関(業務委託先となる金融機関等)を選任するので、金融機関にとっては個人型よりもまとまった人数・資産規模で受託できるメリットがあるのでしょう。初めてその提案資料を見たときは「へー、そんなふうに売り文句をつくるのか」と感心してしまいましたが、本当に企業型DCを導入したほうがいいのかは冷静に考えたほうがよさそうです。

というわけで、会社として企業型DCを実施する場合と、企業型DCは実施せずに社員に個人型DCを勧める場合とで何が違うのか、思いつく点を挙げてみます。

【投資教育】
DCは個々人が各自の判断で運用商品を選択することになります。企業型DCの場合には企業は社員に対して投資教育を実施する義務を負います。今回の法改正により、導入時だけでなく導入後の継続的な教育も努力義務として定められました。
一方、個人型DCの場合には加入自体が個人の判断によるものなので、企業は投資教育に関する法的な義務を負うことはありません。

【加入対象】
企業型DCの場合には厚生年金の適用者全員を加入させるのが原則です(実際には非正規社員は対象外となっているケースがほとんどですが)。企業によっては給与や賞与への上乗せとの選択制にしているケースもありますが、基本的に加入対象を定めるのは企業側です。
一方、個人型DCについては企業が加入を強制することはできません。加入を勧めることはできても、最終的には社員個々人の判断になります。

【加入手続き】
企業型DCであれば、対象に入っていれば社員は自動的に加入者となります。選択制の場合でも、基本的には会社に届け出るだけで加入できます。
しかし個人型DCの場合には自分で運営管理機関を選び、資料請求から本人が行う必要があります。個人型DCの場合には企業は投資教育の義務を負わないと書きましたが、本当に社員に個人型DCに入ってもらおうと思うなら、「加入することでどんなメリットがあるのか」「どうやって運営管理機関を選べがいいのか」といったところからしっかり教育する必要があると思います。

【運営管理機関や商品ラインナップの評価・選定】
先日の記事にも書きましたが、今回の法改正により企業型DCでは少なくとも5年に1回は委託先の運営管理機関の評価を行うことが努力義務として定められました。また、運用商品数に上限が設けられることになったため、適正に商品の評価を行い、選定することもも求められます。
個人型DCでは企業側にこうしたことは求められません(ただ上にも書いたように、どう運営管理機関や商品を選べばよいのかという社員の声に応える必要は出てきそうです)。

【掛金の上限】
企業型DCの掛金の上限は1月あたり27,500円(他に企業年金を実施していない場合は55,000円)です。
一方個人型DCの掛金の上限は12,000円(他に企業年金を実施していない場合は23,000円)です。

【掛金の設定】
企業型DCの場合、社員側が掛金の額を選べるかどうかも含めて掛金を決めるのは企業側です。
一方個人型の場合には5,000円以上1,000円単位で(上限額までの範囲内で)自由に設定できます。変更は年1回可能です。また、掛金拠出を停止して運用指図者となる(過去の積立分の運用のみを行う)ことも可能です。

【運営管理機関手数料の負担】
企業型DCは会社もちですが、個人型DCは個人もちです。

【社会保険料負担】
給与を原資として企業型DCを実施する場合、DC掛金に振り替わった部分は給与ではなくなるため、その分の社会保険料負担が(企業にとっても社員にとっても)軽減されることとなります(これが冒頭の売り文句あった内容です)。但し、社会保険料負担が減るということは、その分将来もらえる厚生年金も減ることになります。
個人型DCの場合は一旦給与として受け取ったあとにDC掛金として拠出することになるので、社会保険料の負担は変わりません。

いかがでしょうか。
冒頭の売り文句について改めて考えてみると、企業型DCを入れた場合には企業側は投資教育等に関する義務を負うことになるので、その事務負担は個人型DCの給与天引きの比ではないのでは?と思います。さらに言うなら、自分の意志で個人型DCに入るような社員は、会社に対していちいち給与天引きの手続きを取らずに直接口座引き落としの手続きをとるような気もします(私もその1人です)。

あと、将来的に企業型DCを実施することになった場合に個人型からの移行手続きが必要になるという点についても、規約に定めれば企業型DCに加入しつつ個人型DCの加入者となることも可能です(企業型のほうの掛金の上限が低くなってしまうというデメリットはありますが)。

今回のDC法の改正は、企業にとってDCをどのように活用するかを改めて考える機会になると思います。慌てて企業型DCを実施しなければならない理由はないので、経営、企業の実務担当者、そして社員個人の立場から、個人型DCの活用を含めてその会社にあった最適な対応をとれるようにしたいですね。