先日、NIKKEI STYLEに「個人型DC、中小企業こそ際立つメリット」と題した記事が掲載されました。

個人型DCとは個人単位で加入する確定拠出年金のことで、企業年金を実施していない会社のサラリーマンであれば、毎月の給与から23,000円を上限として老後の資金を積み立てていくことができます。
(なお、現在国会で審議中のDC法改正案が成立すると、企業年金を実施している会社のサラリーマンも加入できるようになります。)

原則として60歳まで引き出せない代わりに、所得税の計算上、掛金は全額所得から控除されるほか、運用益についても非課税となっており、積立段階では税制上非常に優遇されています。

60歳になると一時金または年金として受けとることが可能になり、一時金で受けとる場合は他の退職金と合算して「退職所得」として扱われることとなります。

しかし退職金の額が小さい中小企業だと、個人型DCを一時金で受給しても「退職所得控除」の枠に収まる可能性が高く、受給段階でも税金はかかりません。

したがって個人型DCは老後資金の積み立てに非常に有効であるというのがこの記事の趣旨です。中小企業でなくても、退職金の水準がそれほど高くない企業であれば同じことが言えます。

「問題は、制度そのものが知られておらず、中小企業に使われていないこと。」という指摘も含めてもっともな内容ですが、では仮に会社として個人型DCを推進しようとしたとき、どうすれば社員に活用してもらえるようになるでしょうか。

個人型DCはその名のとおり申し込みの段階から個人単位で行うべきものであり、会社が手続きを代行したり、ましてや加入を強制できるものではありません。この記事に紹介されているように、社長自身が個人型DCのメリットを理解して率先して加入し、トップダウンで動けば話は早いと思いますが、そういうケースばかりではないと思います。

担当者としては社員のために個人型DCを推し進めたいと考えているものの、どう上の理解を得て、具体的にどう進めていけばいいのかよくわからないというケースもあるでしょう。

そもそも、社員が安心して働けるように会社として老後の資金を手当てしておくという意味では、退職金の額自体を充実させ、そのための資金をしっかり積み立てておくのが本来の姿です。

しかし、将来にわたって退職金を約束するというのは、会社として一定の体力がないと難しいと思いますし、「前払い型」の制度である企業型のDCでも、投資教育が必要であったり、制度の運営にあたって手間やコストがかかります。

したがって、会社に直接的な負担のかからない「個人型DC」を社員に周知させることで、最低限の責任を果たしましょう、ということで、社長や関係者の理解を得ていくことが考えられます。

可能であれば、たとえ小さい額であってもDC掛金の原資としていくらか給与に上乗せすることによって、社員にとって大きなインセンティブとすることができるでしょう。
(但し実際にDCに加入するかどうか、毎月の掛金をいくらにするかは社員が個々に判断することになります。)

そのうえで、社員への説明にあたっては、
  • 身近な当事者としての視点
  • 客観的な専門家としての視点
の2つが重要であると考えます。

1点目については、個人型DCにすでに加入している自社の社員が、自らの経験をもとに個人型DCに加入した経緯や実際に感じたメリットを話すのが理想的でしょう。それによって、例えばいきなり金融機関の営業担当者が自分たちの提供しているプランについて説明を行うよりも、高い信頼性と関心をもって聞いてもらえることと思います。

2点目については、「身近な当事者」だけではカバーしきれない部分について専門家が対応し、社員の疑問や不安を解消することで、制度に対する理解と信頼をさらに深めてもらうということです。

個人型DCへの加入にあたっては、100以上もある取扱金融機関(運営管理機関)から1つを選ぶことになります。社員に少しでも有利なプランを選びとってもらうには、そうした金融機関と利害関係のない、客観的な立場から説明を受けられることが必要です。

もちろん、最終的に運営管理機関を選択してもらうために、いくつかの会社からそれぞれのプランについて説明を受けるのはよいと思いますが、それは社員が個人型DCの仕組みや加入するメリットを理解し、「じゃあどこのプランに入るのがいいだろうか?」という点に関心が移ってからでも遅くはありません。

この手の話はどうしても金融機関任せになってしまいがちですが、社員のことを考えるなら会社が主体的に動くことが重要です。そうすることで社員の信頼を獲得することができ、会社にとっても社員にとっても望ましい結果に結び付けていくことができるでしょう。