昨日の日経朝刊1面トップは「年金債務 企業を圧迫」でした(ちなみにここでいう「年金債務」は「退職給付債務」と同じ意味)。

「日銀のマイナス金利政策の影響が、年金の負担増を通じ企業収益を圧迫し始めた。長期金利の利回りがマイナス圏に下がったことで、企業が将来の年金の支払いに備えて用意する必要のある金額が増えるためだ。」というのが記事の趣旨です。

(ところで、特に大きなニュースのない週末の翌日の日経は、企業年金のネガティブな記事が1面を飾ることが多いような気がするのは私だけでしょうか…)

「既に業績に反映させた企業もある」として、2016年3月期においてLIXILグループでは約100億円、大和ハウス工業では849億円を関連費用に計上したとあります。

しかしこれらの企業では、2016年4月から始まる今年度に関しては、金利の低下が年金費用(退職給付費用)の減少につながる可能性があります。記事の中にもあるとおり「年金負担は帳簿上の処理のため企業から現金が流出するわけではない」のです。

長期金利が下がったからといって、企業が将来支払う年金が増えるわけではありませんから(制度内容によっては金利に連動してむしろ減少する)、年金を払いきるまでのトータルでみたコストは増えません。従って、2016年3月期に債務の増加分をすべて費用に反映させた企業は、今期以降のトータルの費用計上額が圧縮されることになるのです。

金利低下による債務の増加分をどれくらいの期間をかけて費用に反映させるかは、各社の会計方針によって異なります。LIXILや大和ハウスのようにその期にすべて計上してしまう会社もあれば、15年以上の長期にわたって分割して費用計上する会社もあります。

短期で計上する会社は、その間の費用負担は増えますが、それが終わると費用負担は減ることになります。一方、長期で計上する会社は影響が薄められるので、増減は小さくなります。

そしてここまで金利が下がってしまうと、これ以上低下する余地はほとんどないと言っていいでしょう。つまり、今後金利が大幅に上がることはあっても、大幅に下がることは考えにくいということです。

金利が上がった場合には、今回と逆のことが起こります。年金債務が減少し、それを即座に反映させる会社では費用の減少にとどまらず、多額の利益が計上される可能性があります。

このような会社にとって年金債務は短期的には業績のかく乱要因でしかありません。金利が下がりきった今、さらに債務が増えるリスクは小さくなっていると言えますが、再び金利が上昇したあとどうするかが問題です。

詳細は割愛しますが、業績への影響を抑えるには、
  • IFRS(国際会計基準)を適用し、年金債務の変動が純利益に影響しないようにする。
  • 年金債務の変動と連動するような年金資産の構成に見直す。
  • 年金債務を負わなくてよい確定拠出型の制度に移行する。
といった方法が考えられます。

年金会計(退職給付会計)は所詮、「帳簿上の処理」ではありますが、その影響が実際の企業活動に及んでしまうような会社では、金利が上昇した後の対応を今から考えておくべきでしょう。