私は2006年に大阪事務所を開設して以来、大阪を拠点として退職金・企業年金のコンサルタントとして活動していますが、事務所開設の翌年から現在に至るまで、継続してお付き合いさせていただいているお客様がいらっしゃいます。

当時多くの会社で対応が迫られていた、適格退職年金制度の廃止に向けたセミナーに出席いただいたことをきっかけに、退職金制度の見直しをお手伝いさせていただくことになったのが始まりです。

日本の会社の退職金は、古くは「退職時の基本給の○ヶ月分」というような形で決められることが多かったのですが、最近はポイント制の退職金を採用している企業が多くなっています。

ポイント制退職金の詳細については以前Pmasのサイトに掲載したコラムをご覧いただければと思いますが、簡単に言うと、月々の給与とは別の体系で1年ごとの勤務に対応するポイントを定め、「退職までにたまったポイント×1万円」というような形で退職金を決めるやり方です。

2000年代は、年功序列の給与体系を見直したことなどから、従来の「基本給×○ヶ月」という計算方式を維持することが難しくなり、勤続年数のほかに等級や役職、各期の人事考課など、様々な要素を組み合わせることが可能なポイント制を採用する企業が急速に増えた時期です。

しかし冒頭のお客様の会社では、勤続年数のみに応じて金額が決まる「定額制」をベースとした、非常にシンプルな制度に見直すこととなりました。

どちらかというと、退職金には勤続年数だけでなく、本人の能力や業績も反映させる方向で見直されるケースが多い中で、時代の流れと逆行しているとも受け取れる制度改定でした。

しかし、「社員は会社の退職金の仕組みがどうなっているのか知らない」「いくらもらえるのかよく分からない」といった声を多く見聞きするにつれ、何年働いたらいくらもらえるのかがすぐ分かるというのは、社員にとって非常に大切な要素ではないかという思いが、私の中では強くなっています。

もちろん、多少複雑な退職金制度であっても、社員に対して丁寧に説明したり、定期的にポイントや金額を通知することによって理解度を高めることはできるでしょうが、コミュニケーションコストがかかってしまうのは否めません。

「社員にとって理想の退職金とは」

この問いに対する唯一の答えはありませんが、定年まで働いたらいくらもらえるのかが誰でもわかる、「計算できる退職金」「安心できる退職金」というのも1つの確かな解ではないでしょうか。