この7月、年金基金の常務理事さん(実務の責任者)を相手に、「企業年金ガバナンス」について話をすることになりました。出席者は主に大手企業の年金基金で、業務経験はそれほど長くない方が多いようです。

実は私も「ガバナンス」についてセミナーで話をするのは初めてで、なかなかとらえどころのない概念なので、これを機に少し整理しておこうと思います。

「ガバナンス」を辞書で引くと、次のような説明が出てきます。
統治。支配。管理。また、そのための機構や方法。
もう少しかみ砕いていうなら、「組織の目的(年金基金であれば、加入者に対して約束した給付を支払うこと)を達成するために、適切な運営や意思決定を行えるような仕組みや体制のこと」といったところでしょうか。

「ガバナンスが有効に機能している」とは、こうした仕組みが整備されて、実際にそれが機能していることを意味します。

さて、年金基金の運営にかかわる主要な意思決定には以下のようなものがあります。
  • 給付設計(給付の水準や算定方法、一時金・年金等の給付の種類)をどうするか
  • 年金制度に積み立てる掛金(基本的には会社が負担)をどうするか
  • 年金資産の運用をどうするか
これらの意思決定を行うため、財政の計画を作成し、それと照らし合わせて実際に計画通りにいっているか、見直しは必要ないかというチェックを定期的に行っていくことになります。

ここで問題になるのは、当事者である会社(経営者)と加入者(従業員)及び年金受給者(退職者)が、年金制度の内容や運営状況をどこまで理解しているか、ということです。

特に、加入者側の理解は、非常に心もとないものがあります。

加入者(及び年金受給者)の利益が損なわれないよう、給付内容の変更など重要な意思決定には加入者の同意が必要とされたり、掛金の拠出、財政状況の検証と報告、情報開示などについて、法律上のルールが定められていますが、それだけでは十分とはいえません。

給付を受ける権利を持つ加入者自身がその権利の内容を理解し、積極的に守ろうとすることで、「その意思決定は妥当なのか」、「不適切な運営が行われていないか」といったチェックが有効にはたらくことになります。

加入者に対して年金制度の内容や運営状況についての情報を開示し、説明を行い、理解度を高めていくこと。それが、企業年金ガバナンスを有効に機能させるための第一歩であると、私は考えています。